医者になって数ヶ月。
がんの告知、死の宣告、そして死亡確認。
医者には、よいニュースなど一つもないものだと思っていた。
そしてそれが医者なのだ、とも思っていた。
少しまとまった時間ができたので、久しぶりに小説を読みました。
久しぶりに読んだからなのか、或いは内容が良かったからなのか、ずいぶんと胸を打たれた小説であったことから、書評という名の読書感想文を書いてみたいと思います。
患者を救い、患者に救われるストーリー
大筋としては、研修医一年目の主人公が医療現場の現実を突きつけられ、医師としての自身の未熟さに悩み葛藤しながら成長していく様を綴った内容となっています。
こう書いてしまうと「よくある医療モノ」と思われてしまうかもしれませんが、現役医師だからこそ紡ぎ出すことができる、緊迫感やリアルな感情の描写に胸を打たれたのだと思います。
- 交通事故で救急搬送された5才男児
- 94歳の生活保護受給者
- 14歳の女の子
- 同年代の末期がん患者
- 合コンで知り合った年下のOL
それぞれ背景が異なる登場人物と絡めながら、「命の値段」「恐怖」「嘘」「責任」「覚悟」といった医師ならでは重圧と向き合い、乗り越えようと努力する様がリアルに描かれており、物語としては繋がっていないように見られるものの、主人公の視点を通してみるとプロローグからエピローグまでが全て繋がっており、飽きることなく一気に読み進めることができる作品だと思います。
医療関係者、子を持つ親、医師と接する機会がある人に読んでほしい
久しぶりの小説にこの本を選んだ理由としては、現役の外科医が書いた「リアルな小説(おかしな言葉ですが)」を読んでみたいと思ったからです。
著者である中山裕次郎氏のプロフィールに触れておきます。
中山 祐次郎(なかやま・ゆうじろう) 外科医
1980年生まれ。聖光学院高等学校を卒業後、2浪を経て、鹿児島大学医学部医学科を卒業。その後、都立駒込病院外科初期・後期研修医を修了。2017年2~3月は福島県広野町の高野病院院長、現在は郡山市の総合南東北病院で外科医長として勤務。資格は消化器外科専門医、外科専門医、がん治療認定医、感染管理医師など。著書に『幸せな死のために一刻も早くあなたにお伝えしたいこと 若き外科医が見つめた「いのち」の現場三百六十五日 (幻冬舎新書)』、『医者の本音 (SB新書)』がある。モットーは「いつ死んでも後悔するように生きる」。
著者については、幻冬舎の見城徹氏が出演する「徹の部屋」にSHOWROOM代表 前田裕二氏、編集者 箕輪厚介氏と一緒に出演していたことをきっかけにその名前を知りました。
2019年2月頃と記憶していますが、見城氏がNewsPicksに対する批判をSNS上にぶちまけていたこともあり、箕輪氏を前にどのようなトークが繰り広げられるのか気になって番組を視聴していました。
見城氏とNewsPicksの争いについては、このあたりの記事を読むとざっくり内容を拾うことができます。
lineblog.me
話を戻します。
この放送を見て、前田×箕輪コンビの『メモの魔力』か中山×小木田の『泣くな研修医』のどちらかを購入しようか迷ったんですが、ここのところビジネス系の書籍ばかり手にとっており、人間としての幅が狭くなっているような気がしたので小説を選択しました。
医療については門外漢ですが、読みたてほやほやの今の感情をストレートに書き出すと、医療関係者、子を持つ親、医師と接する機会がある人に読んでほしい小説だと感じました。
医師としての恐怖・苦悩・葛藤、我が子が病気や怪我をしてしまったときの気持ち、親族や身近な人が医者にかかっている人の苦しみ、それぞれの視点で様々な感情を抱きながらラストまで突き抜けること間違いなしです。
医学用語を少し分かった気になれる特典付き
- 高エネルギー外傷
- 酸素飽和度(サチュレーション)
- 救急要請(ホットライン)
- 注射器(シリンジ)
- 脱水(ハイポボレミア)
- 経鼻胃管(マーゲンゾンデ)
- BSC(Best Supportive Care)
- 大動脈解離(ダイセクション)
- 虫垂炎(アッペ)
- 腰椎麻酔(ルンバール)
- 状況説明(ムンテラ)
- イレウス
- 終末期(ターミナル)、など
普段生活する上では、なかなか耳にすることがないワードが散りばめられており、なんだか自分が医療関係者であるかのような錯覚(勘違い)を覚えさせてくれます。
これらの言葉を知っていたところで、自分の人生が大きく変わることはないと思いますが、どこかで耳にしたことはあるけど意味を良く理解していなかったこれらのワードを知ることで、物語へ前のめりにのめり込むことが出来るようになります。
小説以外のメディア活動
著者である中山氏は小説家としての活動以外にも、外科医としての仕事に加えて医療関係のコラムをWEB掲載するなど、活躍の場を限定せずに精力的に活動をされているようです。
日経ビジネスのコンテンツにアクセスするだけでも、これまでの誤った医療に関する知識を払拭するとともに、これからの時代をどう生きるべきかのヒントになると思います。
こういった記事が無料で読めるのはありがたいですね!
business.nikkei.com
本は電子書籍より紙で残したい派。